人気ブログランキング | 話題のタグを見る

あおいあおいはなのように。儚い言葉、紡ぎ落として


by blueblue_darkrose

日常SS。

コッソリと、流した滴が泉に落ちる。その音は、かすか過ぎて、誰にも聞こえない。


ワタシタチと彼女

 ワタシタチはずっと彼女を見ています。だから彼女のことであれば、物語のように紡げるでしょう。

 ワタシタチはワタシであり、ワタシタチです。ワタシが生まれたのは静かな湖畔であり、砂漠の道端です。

 風にゆられ、時には獣の吐息に体を揺らしました。

 ともあれワタシが生まれたのはこのミッドガルドという大地。何れおとなう神々の黄昏のときを生きる住人。
 彼女もまた、そんな中の一人です。
彼女は――よく私たちの元を訪れます。ごく頻繁に。そしてワタシタチを摘み、薬を作る事を好むようです。
 魔法薬――ポーションと、そういうのでしょうか。ワタシタチがそれの原材料となっているためでしょう、彼女以外にもそういったものは多いです。自身で使うため、売るため、理由は様々ですが。そういった彼等彼女等は…ワタシタチの命をつんでいきます。

 今日もまた、彼女の手が、私たちを撫でて、その手に色とりどりの私をつかんでいきます。

これも、何時もの事

さて、ではこれより以降は彼女の手に移ったワタシから、紡ぐことにいたしましょう…


彼女の手が、幾つかの材料を選び取ります。このワタシは青い色です。

 黄色い結晶体と、ワタシと水が乳鉢の中で擦り合わされ、ろ過され、瓶の中へと詰められてゆきます。
彼女はあまり腕はよいほうではないのですが…ワタシは何とか使い物になると判断されたようです。中身は零されることなく瓶にコルクのふたがはめ込まれました。

彼女の手に摘まれたワタシタチは一人残らず擦り合わされ、精製されていきます。
やがて彼女の手が止まり、あとには半端な材料と硝子瓶に詰められた赤、黄、白、青の薬液が残されていました。

彼女はそれを半分は自身のカートにもう半分――特にワタシたち青い瓶は倉庫へと預けられました。かすかな寂寥を含んだ眼差しがワタシを掠め、そして次にはそれを隠すように奇声を上げて何処かへと行きました。大抵そういうときには共に連れるのは彼女が生み出した人工生命体一羽を連れるのみでした。

 幾許か時間が過ぎワタシタチは倉庫の中でまどろんでいます。彼女は定期的にワタシタチを作り、半分は売り、もう半分は倉庫に貯蔵する行為を繰り返しています。その理由はワタシでは分かりません。ワタシより長くここにいるワタシもしりません。ただ――

 清涼な空気と水と、力溢れる大樹の幹の一角で、佇む彼女がワタシタチに眼を向けることもなく何をしているのか、本当に知っているのは、ワタシタチだけなのです。
by blueblue_darkrose | 2006-05-16 15:21